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特集

【産業立地特集】問われる立地戦略 打たれ強い地域経済を

【2019年9月13日付 日刊工業新聞 18面 広告特集】

米中の貿易摩擦の激化により、国内製造業の設備投資に陰りが見え始めた。日韓の貿易をめぐる規制の強化を含め、通商面での制度変更が、すぐさま国内立地動向に影響を与えるとは考えにくいが、リーマン・ショックからの回復軌道にあったわが国製造業の今後については、懸念材料が増している。今後のショックに、2017年に施行された「地域未来投資促進法」が、どれほどレジリエントであるかが試される局面を迎えつつあるともいえる。


新たな政策 第4の山 形成となるか

図1:全国における工場立地件数および立地面積の推移(経済産業省「工場立地動向調査」を基に作成)

まず最初に、経済産業省の「工場立地動向調査」をもとに、新規工場立地の長期的推移をみてみよう。

図1から、三つの「山」がみてとれる。一つ目は、戦後高度成長期の1970年代前半で、二つ目がバブル期の80年代後半にあたる。これらが「大きな山」であるのに対し、2002―07年に「小さな山」がみられる。

この第3の「小さな山」の評価をめぐっては、二つの見方がある。一つは、90年代初めのバブル崩壊以降、海外立地が大きな流れであって、国内立地はもはや影響力を失ったとするものである。もう一つは、02年以降の「国内回帰」が、デジタル家電ブームによってけん引されたように、今後も新たな技術革新により、国内立地は重要性を失っていないとするものである。

08年のリーマン・ショック後の動向をみると、わずかに増加する傾向がみられるものの、「第4の山」を形成するような力強い動きにはなっていない。17年7月末に「地域未来投資促進法」が施行されたが、この新たな産業立地政策が「第4の山」を形成するのかどうか、今まさに政策の効果が注目されるのである。

メード・イン・ジャパン需要が追い風

図2:地域別工場立地件数の変化(経済産業省「工場立地動向調査」を基に作成)

「地域未来投資促進法」の現状については、後述することにして、「工場立地動向調査」をもとに、地域別にみた工場立地の変化をみてみよう(図2)。

85―89年のバブル期には、東北、北海道、中・四国、九州といった地方工業化が進んでいたのに対し、02年以降、関東内陸、関東臨海、東海、近畿内陸、近畿臨海といった大都市圏の占める割合が増加し、立地の潮目が変わってきたのである。しかも、これまで「工業等制限法」(1959―2002年)の規制を受けてきた関東臨海や近畿臨海が、工場の新たな立地先として再評価されてきた。さらに、12―16年の構成比をみると、関東臨海、近畿臨海がやや減少傾向にあるのに対し、関東内陸や近畿内陸の割合が増加傾向を示し、東日本大震災からの復興策を受けた南東北も再び増加をみせてきた点が注目される。

図3:業種別工場立地件数の変化(経済産業省「工場立地動向調査」を基に作成)

次に、業種別にみた工場立地の変化をみてみよう(図3)。85―89年では、衣服や電気機械の割合が相対的に大きかったのに対し、それらの業種の割合が02年以降は大幅に減少し、代わって食料・飲料、化学、一般機械・精密機械、輸送用機械の割合の増加が顕著にみられた。

なお、12―16年に食料・飲料がさらに増加をみせたのに対し、電気機械とともに輸送用機械の割合が減少しだした点には留意する必要がある。

こうした12―16年の地域別・業種別工場立地動向調査の結果は、新たな産業立地の動きを示唆するものといえる。すなわち、東京、名古屋、大阪の3大都市圏では、東北自動車道や中国自動車道など、放射線状に伸びた高速道路沿いの工業団地に工場が立地した時代に代わって、圏央道や北関東自動車道など、環状の高速道路の開通区間が広がり、それらのインターチェンジ付近に活発な工場の新設がみられてきたのである。

メード・イン・ジャパンの製品に対する海外需要の増大を追い風に、何十年ぶりに新工場の建設がみられた食料・飲料、化粧品などの業界が、新たなけん引役を果たしてきている。しかも、そうした工場の多くが、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)導入に工夫が図られ、環境対応に優れるなど、未来型の先進工場となっている点も重要である。

地域未来投資促進法 件数順調に増加

ところで、17年7月末に「地域未来投資促進法」が、07年からの「企業立地促進法」に代わって、施行された。従来の政策と異なる点としては、まず第1に、集積業種・区域の選定がなくなり、製造業だけではなく、IT産業やコンテンツ産業、農林水産業、観光業やスポーツビジネスなど、幅広い業種の企業による地域経済牽引事業が対象になる点が挙げられる。

第2に、市町村および都道府県の基本計画に国が同意するという「企業立地促進法」と同じ手法だけではなく、広域的な連携を含む、地域の公設試験研究機関等が連携する「連携支援事業」を、国承認の事業として新設した点が注目される。

第3に、減税措置や規制緩和を中心とした支援策のみならず、地方創生交付金などと連動させることで、既存の施設や設備の更新や新設など、ハード整備に対する補助金が投入されることも、インパクトを大きくしている。

全国的な状況をみてみると、「地域未来投資促進法」の基本計画の件数は、228計画と順調に増えてきている(19年5月17日時点)。このうち、「ものづくり」が183件と1番多く、「観光・スポーツ・文化・まちづくり」が130件でこれに次いでいる。このほか、「農林水産・地域商社」「第4次産業革命」「環境・エネルギー」など、分野の多様化がみられる。また、連携支援計画は77計画で、最近増えてきているが、その中身は一つの県の中での連携が多く、県を越えた連携支援計画は、四国や北陸などに限られている。

都道府県により承認された地域経済牽引事業も増加傾向にあり、19年4月30日時点で1508計画となり、このうち地域未来投資促進税制を支援措置としたものが約半数を占めている。税制優遇を念頭に置いた工場の設備投資が中心になっている傾向がみられ、こうした「点」としての投資の波及効果を高め、「面」に広げ、地域経済全体の浮揚を図っていくことが今後の課題といえる。

特定産業に偏った地域が、リーマン・ショックで打撃を受けたことを思いおこし、多分野を特徴とする「地域未来投資促進法」の下で、打たれ強い体質の地域経済を創っていく地方自治体による立地戦略が問われているのである。

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