2021年も残り4ヶ月程度となったが、ベトナムはコロナの第4波によって経済が混乱している現状だ。本記事では2021年上半期のベトナム経済を振り返りつつ、2021年全体の見通しを解説する。ポジティブな側面と、ネガティブな側面の両面から今後のベトナム経済を深く分析していきたい。
2021年度上半期のGDP成長
ベトナムの2021年度上半期の経済は、まさに「V字回復」とよべる結果となった。2020年は、1年を通してコロナ禍の影響を受け、ベトナムの経済成長は滞った。しかし、2021年上半期には、前年の停滞を払しょくするかのような右肩上がりのGDP成長を見せ、ベトナムは2020年、東南アジアのなかで唯一、GDPがプラス成長した国であった。
ベトナム統計総局によれば、2021年度上半期の成長率は5.64%に達した。第1四半期GDP成長率は4.48%、第2四半期GDP成長率は6.61%に達成した。以前から発表されていた予測値より低くなったものの、世界中の他の国々と比較すれば、かなり高い成長率である。
産業別および全体のGDP成長実績
ベトナム統計総局は2021年度上半期における農林水産業、鉱工業・建設業、サービス業の業種別GDP成長率を発表している。
農林水産業
農林水産業の2021年度上半期のGDP成長率は、4.11%となった。農業はコロナ禍であった2020年にもプラス成長を遂げ、安定して成長を続けている。このため、農林水産業はコロナウイルス蔓延の悪影響が比較的少なかった産業だと言える。
鉱工業・建設業
鉱工業・建設業は、10.28%のGDP成長となった。図を見ると、コロナ禍に陥った2020年に大きく成長率が下がったが、2021年上半期にはV字回復を遂げている。成長率は最も高く、2021年上半期で比較的大きく回復した産業だと言える。
サービス業
サービス業は他の産業と比較して堅調に推移している。サービス業はベトナムの産業別GDPで最も大きなシェアを占めており、コロナ前は高い成長率を示していた。コロナウイルスの流行が落ち着き、以前の生活様式に戻ればサービス業は再び大きく成長するだろう。
GDP全体の総括
一方GDP全体の成長率では、2020年上半期の成長率(1.82%)に比べて、より高い成長率5.64%となった。ただし、2018年度同時期(7.05%)、2019年度同時期(6.77%)と比較すると低い成長率である。
他国との比較
世界各国の2021年上半期GDP成長率と比較すると、ベトナムのGDP成長率は決して低くない。例えばアメリカは、2021年上半期のGDP成長率がおよそ6.4%である。第1四半期は6.3%、第2四半期は6.5%と発表された(アメリカ政府公表データ)。また日本の場合、第1四半期GDP成長率(6月8日発表、2次速報)は前期比-1.0%であった。第2四半期のGDPはまだ発表されていないが、前期比0.4%のプラス成長が予測されている。一方、第1四半期のEUの成長率はマイナス0.1%に踏みとどまり、第2四半期は2.0%増になった(欧州連合(EU)統計局)。すなわち、ベトナムのGDPは、コロナ禍でも世界と比較して安定して成長していると評価できる。
今後のベトナム経済の展望
ここまで、ベトナムの2021年上半期について解説してきた。次に2021年下半期に加え、その先の動向についても解説する。特に日本企業とベトナムとの関係性、という観点から考察していきたい。
2021年全体のGDP成長予測
コロナウイルスの感染拡大状況を考慮し、ベトナム経済・政策研究所(VEPR)は、2021年におけるベトナムのGDP成長率は以前発表した予測より1.2~1.5%程度低くなり、4.5%~5.1%に着地すると予測した。ただし、これは東南アジア各国の経済成長率と比較すると依然高い数字である。最新の調査(2021年6月8日)によると、2021年のタイの成長率は2.2%、インドネシアは4.4%、フィリピンは4.7%と予測されている。また、マレーシアは6%にまで回復すると予想されている。このように現時点では、ベトナムは依然として比較的安全な経済成長率を維持しており、日本企業にとって非常にポテンシャルのある投資先だと言える。
3つの成長シナリオ解説
現在のベトナムの状況に基づいて、VEPRは下記の3つの予測シナリオを発表している。
中位シナリオ
新型コロナは2021年第3四半期末までに収束し、ワクチン接種は迅速に展開され、集団免疫は2022年の第2四半期に達成される。通年の成長率は4.5~5.1%と予測されている。その中で、鉱工業・建設業のGDP成長率は6.5~7.5%になり、農林水産業およびサービス業はそれぞれ3.0~3.5%になる。
高位シナリオ
新型コロナは2021年8月までに収束し、ワクチン接種も素早く展開され、集団免疫は2022年の第1四半期に完成する。通年の成長率は5.4~6.1%と予測されている。その中で、鉱工業・建設業のGDPは8.0~9.0%になり、農林水産業およびサービス業のGDPはそれぞれ3.5~4.0%になる。
下位シナリオ
新型コロナはすぐには収束せず、経済活動は第4四半期まで正常に戻ることができず、ワクチン接種は迅速には進まない。2021年全体の成長率は3.5~4.0%に留まる。その中で、鉱工業・建設業のGDP成長率は4.5~5.5%に落ち着く。農林水産業およびサービス業はそれぞれ2.5~3.0%にとどまる。
コロナ禍におけるベトナム経済の見通しと分析
ここからはコロナ影響が拡大するベトナム経済について、ネガティブな側面とポジティブな側面を併せて分析してきたい。
ネガティブな側面
経済活動に与える実影響
2021年の経済見通しについて、7月から始まったベトナムでの急激な感染拡大が企業の生産プロセスを混乱させ、経済活動に大きな影響を与えると考えられる。実際にコロナウイルス拡大の第4波によって、感染者数も感染地域も拡大しており、特にハノイ市、ホーチミン市、バクザン省、バクニン省などの経済活動が活発な地域に直接影響が及ぼされている。
経済成長予測の下方修正
アジア開発銀行(ADB)は、2021年4月に発表したレポート内で、ベトナムの2021年GDP成長率を6.7%と予測していた。しかし、7月から始まったベトナムでのコロナウイルス感染拡大を受け、ADBはベトナムの2021年GDP成長率を5.8%に下方修正した。
また英系金融大手のHSBCも、コロナウイルス感染拡大の影響を鑑み、ベトナムの2021年GDP成長率を6.6%から6.1%に下方修正した。他の金融機関もベトナムのGDP成長率予測を下方修正しており、ややネガティブな意見が強まっているのは否めない。
ポジティブな側面
一方で、コロナ禍にあるベトナム経済にもポジティブな動向が複数見られる。下方修正後の成長率が依然6%前後に踏みとどまっているのも、このポジティブな側面による部分が大きい。
コロナ禍でも需要が落ちない業種
日本でも同様だが、コロナ禍でも需要の落ちない業界は複数存在する。運送業、農業、IT、医療、小売などが挙げられる。
例えば農業は、本記事でも解説したように、コロナ禍でもマイナスに転じることなく成長している産業である。ベトナムでは最近、EC(オンラインショッピング)が浸透しており、ITと運送業の需要を支えている。運送業に関しては、ベトナム政府が感染拡大防止のために規制をかけているが、ロックダウンにより依然需要が高まっている。また医療・小売も、コロナ禍によって需要が落ちていない産業である。特に昨今のベトナムでは、コロナ禍や生活習慣病の増加、所得の増加に伴い国民の健康意識が向上しつつある。今後のベトナム経済を考える際には、この点も考慮すべきである。
日本企業の投資プロジェクト探索
現在のベトナムでは、多くの日系企業がアフターコロナに向けた投資プロジェクトを探索している。特に再生可能エネルギー、健康食品、医療、IT、通信、不動産、製造業界が注目されている。さらに、多くの日系企業は工業用不動産、オフィス不動産のプロジェクトや安価な賃貸工場を積極的に探索している。
日本は以前から、ベトナムに最も投資をしている国々の1つである。ベトナムの計画投資省海外投資局の海外直接投資(FDI)に関するデータによると、2020年のFDI認可額(推定値)は、コロナウイルス流行の影響で、前年比マイナス25%の285億3010万USD(約2兆9700億円)となった。その2020年、日本のベトナムへの投資額は4番目に多かった。すなわち、日系企業は依然ベトナムに対して強い関心を持っていると言える。
結論
2021年度下半期の成長動向は、ワクチン接種の速度と規模、有効性、コロナ予防政策の効果などに大きく依存すると考える。2021年末までに、ワクチン接種を受ける人はおよそ人口の70%を占めると予想されている。そして、ベトナム政府は経済を迅速に回復するために積極的なコロナウイルス封じ込め政策をとっている。
このことから、長期プロジェクトに投資したいという日本企業にとって、ベトナムは魅力的な投資先であることは変わりないだろう。
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