はじめに
2021年11月12日、ハノイ市で開かれた国会において「2022年の社会経済開発計画に関する決議案」が承認された。この決議案の中で、ベトナムは2022年のGDP成長率+6~6.5%を目指していくことが定められた。新型コロナが経済に影響を及ぼすことが心配される中ではあったが、2021年のベトナムのGDP成長率をIMF(国際通貨基金)が+3.8%、世界銀行が+2.0~2.5%とプラス成長を見込み、この勢いが2022年の経済成長を加速させるという予測の下で、+6.0%以上という目標は決して非現実的なものではないと考えられている。
今回のレポートでは、ベトナムの国会にて承認された経済開発計画、および世界銀行などの各国際機関の予測を下に、2022年にベトナム経済がどのように成長していくかを予測していきたい。
2021年のベトナム経済の振り返り
2022年のベトナム経済予測を始める前に、2021年のベトナム経済を簡単に振り返っておきたい。
2021年上半期
2021年の上半期(1~6月)のGDP成長率は+5.64%となり、2020年の+2.9%と比較するとまさにV字回復と呼べる成長となっていた。特に鉄鋼業・建設業におけるGDP成長率は+10.28%と、全産業の中で最も高く、ベトナム経済の成長率を押し上げる要因となった。
2021年下半期
しかし、2021年の後半から徐々に新型コロナ感染者が増え始め、ホーチミン市・ハノイ市などの大都市圏での都市封鎖(ロックダウン)も行われた。これにより、2021年下半期の経済成長は大きく失速した。特に飲食・サービス業は大きな影響を受け、営業することができなくなった店舗も多い。しかしそんな中でも、工場や会社のオフィスに社員が泊まり込んで営業を続ける企業も多く、ベトナム人の「たくましさ」が見えた場面もあった。
ワクチン接種率の増加
さらにベトナム政府は日本でも使用されているファイザー(米)、モデルナ(米)、アストラゼネカ(英)の他にもシノファーム(中)やスプートニクV(露)など世界各国からワクチンをかき集め、企業、学校や集会所での集団接種を進めてきた。そうした政府の努力もあり、2021年11月29日時点ではワクチン1回接種率が73.1%、2回接種率が52.3%と急速にワクチン接種を受けた人の数が増加している。
これにより、ベトナムにおける新型コロナの感染は徐々に落ち着きを取り戻している状況である。
2022年ベトナム経済成長の見通し
上記で見てきたように、ベトナムが新型コロナの影響から徐々に脱却しつつあることを踏まえて、11月12日のベトナム国会において、2022年のGDP成長率+6.0~6.5%を目指していく計画が採択された。この計画が承認される過程では、+6.0%という目標は高すぎるため、+5.0%の目標とすべきだという意見もあった。しかし2021年の低成長や、世界全体がコロナの影響から脱却しつつあるという情勢を踏まえて、6.0%以上という目標が設定された。
2022年経済開発計画における詳細な目標
2022年経済開発計画においては、GDPの成長率だけでなく、マクロ経済における各指標の数値目標が詳細に定められた。以下ではこれらの目標を詳しく見ていきたい。
No. | 項目 | 2022年目標 | 2021年目標 |
---|---|---|---|
1 | 1人あたりGDP | 3,900ドル | 3,700ドル |
2 | GDPに占める製造業の割合 | 25.5~25.8% | - |
3 | CPI上昇率 | 4% | 4% |
4 | 労働生産性の上昇率 | 5.5% | 4.8% |
5 | 農業就業者の割合 | 27.5% | - |
6 | 訓練を受けた労働者の割合 | 67% | 66% |
7 | 都市部の失業率 | 4%未満 | - |
8 | 貧困率 | 1~1.5ポイント減 | 1~1.5ポイント減 |
9 | 1万人あたりの医師数 | 9.4人 | - |
10 | 1万人あたりの病床数 | 29.5床 | - |
11 | 健康保険の加入率 | 92% | 91% |
12 | 都市部の日常生活における固形廃棄物の収集・ 処理割合 |
89% | 87% |
13 | 環境基準を満たす集中型廃水処理システムが 整備された工業団地・輸出加工区の割合 |
91% | 91% |
※CPI=消費者物価指数。特に一般家庭が購入する商品・サービスの物価に焦点を当てた指標であり、CPIが上昇するとインフレーション、下落するとデフレーションになる。
2022年の目標では、「GDPに占める製造業の割合」、「農業就業者の割合」、「都市部の失業率」、「1万人あたりの医師数・病床数」の項目が新たに設けられた。
これについては、新型コロナの影響で医療体制を国として整備する必要性が浮き彫りになったこと、都市部への人口流入および格差の拡大により失業者の問題が大きくなってきたこと等の背景がある。
2022年ベトナム経済に関する世界銀行・金融機関の予測
2022年のベトナム経済成長の予測については、多くの国際機関、金融機関が大きくプラス成長するという予測を出している。以下で詳述していく。
世界銀行
世界銀行は、2022年のベトナムGDPは+6.5~7.0%成長すると予測している。世界銀行によると、ベトナムのロックダウン、社会隔離等の施策が功を奏し、2021年の終わりにかけて新型コロナ感染が落ち着きを見せ、2022年では経済の回復が見られると予測している。またアメリカ、欧州連合、中国へのベトナムからの輸出が回復・拡大すると見込まれており、さらに2022年台半ばまでには、人口の70%に対するワクチン接種が実施され、コロナが抑制されると考えられている。
アジア開発銀行
アジア開発銀行は、2021年9月に発表した「アジア経済見通し2021年版(Asian Development Outlook)」の中で、ベトナム経済のGDPは2022年に+6.5%成長すると予測している。この予測は、2021年の経済成長の見通しが2021年初期に予想されたよりも落ち込むこと、一方で2022年には経済が回復することによるものである。
今後のベトナム経済のゆくえ
2021年後半の新型コロナ感染拡大により経済が失速したベトナムであるが、2022年の経済予測については概ね明るい見通しが多い。その理由には、以下の2つの理由が考えられる。
新型コロナのワクチンの普及
ベトナム政府はワクチンを各国から買入れ、集めており、ワクチンの承認も急ピッチで進めている。すでに人口の70%以上が1回目のワクチンを接種しており、ワクチン普及のスピードは非常に速い。今後ほとんどの国民がワクチンを接種することで、感染者も抑制され経済が回復する見込みである。
外需の回復によりベトナムの輸出は引き続き成長
現在はロックダウン等により内需は落ち込んでいるが、もともとベトナムは米国・中国・欧州への輸出収益が経済成長をけん引してきた国である。すでに米国や中国は新型コロナからかなり回復しており、ベトナムの輸出産業が2022年以降これまで以上に増えていくと考えられる。
2021年も2020年から引き続き「コロナの年」となったが、ワクチン普及による世界経済全体に明るい回復の兆しが見え始めている。その中で、ベトナムの経済がどのように発展していくのか、注目が集まる。
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