総力挙げて競争体制構築
就任以来3カ月、バイデン政権の中国観や対中政策の輪郭がはっきりしてきた。その基本姿勢は、中国を最も深刻な競争相手と捉え、米政府の総力、米官民の総力、同盟国の総力を、それぞれ総動員して対峙(たいじ)しなければならないというもの。
こうした認識の背景には、バイデン大統領自身の中国との長い個人的付き合いや、さらには、オバマ時代の外交・国防分野を担った高官たちの対中幻滅がある。自己の甘かった中国理解に裏切られた形となった彼らの多くが今、バイデン政権に舞い戻って対中政策の立案・実行を担うようになっている。中国の実力を熟知すればするほど、中国は行政府の単なる一部門だけで対処できる相手ではなくなったとの認識と相まって、対中総力戦体制整備論にたどり着いているわけだ。
かくして、バイデンの対中政策立案チームは、通常、新政権発足時に採りがちな融和の姿勢を一切取らず、いきなりトランプ前政権の硬派のアプローチを踏襲することからスタート。新疆ウイグル自治区やチベット、そして香港などでの人権問題、報道の自由問題、ミャンマーの軍事クーデターへの中国の対応ぶりへの批判などは、そうした姿勢の表れ以外には考えられない。そして、そうした姿勢の背景にはまた、米国議会の超党派の対中強硬視線があることも、あえて指摘するまでもないだろう。少し皮肉な表現をすれば、世相がそれほどまでに中国を厳しく見ているが故に、オバマ時代に脛(すね)に傷を持つ専門家たちが、対中姿勢を強硬化せざるをえなくなっている、とも言える。
一方、現実には、米国のアジア・太平洋における足場は、かつてないほど弱体化してしまっている。経済面では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から脱退、復帰しようにも米国内世論が容易に許容しない雰囲気だ。中国は自国とアジア経済のさらなる一体化をめざし、アジアでの共通の経済ルール形成に役立つ東アジア経済連携協定(RCEP)を、米国が大統領選でもたついている最中に成立させてしまっている。つまり、中国は、米国に比し、自身に有利な経済競争土俵をアジアで既に構築してしまっている。
だとすれば、米国にとって経済競争場裏で中国と戦う武器は、これまた既活用の米国法の域外適用、あるいは、技術分野での中国企業排除、さらには、金融手法を通じての影響力行使ぐらいしか残されていない。だがしかし、中国の方もまた、そんな米国に同種の手段(例えばデジタル人民元)で対抗しようとしているのも明白だろう。
結果として、米国にとって残された手法は、アジア・太平洋での同盟・準同盟フレームの新規構築、ということになる。直近に実現した米印豪日のクアッド会議、あるいは、中国が設けている第一列島線沿いにミサイル防衛網を配置しようとの米海軍の予算要求、さらには、英独仏へのアジア・太平洋地域への軍艦派遣要請などは、まさにそうした典型例。そして、そうした安全保障面での対抗措置を、米国がどこまで貫き通すか。そのリトマス試験紙こそ、台湾問題となるのではなかろうか。
◇関西学院大学フェロー 鷲尾友春