EV化で産業集積の地図が変わる
自動車産業における産業集積は、ピラミッド型の下請産業構造が構築されている。特に従来の内燃機を中心とした車づくりは、「すり合わせ」技術が求められ日本が得意としてきた分野である。その分野が、EV化により部品のモジュール化(組み合わせ)に変わって、従来のすり合わせ技術+が徐々に減少する。
また、従来の車は部品点数が約3万の部品で構成されているが、それが半分に減少し1万4000―1万6000点の部品になると予想される。さらに機械産業からモーター、電子化へと電気産業の分野へと生産形態が変わってくる。
従来の自動車産業は機械金属産業を中心に構成されてきたが、電気産業、電子部品産業が主体になり、自動車産業の集積地図が変わってくると予想される(図2)。かつての自動車部品工場は消え、新たに電子部品、ソフト産業が自動車産業の主役となる。テスラモーターにみるシリコンバレー発の自動車のような、IT産業の集積地からEVが生産される可能性が高まる。つまり自動車生産はデトロイトとはならない。
わが国においても自動車産業集積は、従来の地域から少しずつ変化する可能性があり、従来から電機・電子部品が集積している九州や東北地域などに、自動車産業の集積が移ることも予想される。
自動車のEV化で産業立地にも大きな影響を受ける可能性もある。富国生命「アナリストの目」によれば、図3(次ページ)に見られるように、現状の輸送用機械の製品出荷額は、その約8割が愛知県をトップとした上位10都県から生み出されている。自動車のEV化は、自動車産業の付加価値が一部、自動車ほど地域集積度の高くない電機業界に取り込まれることが予想される。従来の産業集積が少しずつ変化して、地域的に均衡ある日本経済の回復へとつながる可能性もある。
企業誘致は戦略より戦術を生かす
かつての企業誘致は大規模な自動車産業、電機・電子部品産業の誘致の成功に全国の首長が一喜一憂してきた時代であった。近年では、グローバル化経済に伴い競争相手がアジアを中心に熾烈な誘致競争となり大規模誘致は影を潜めてきている。多くの自治体は、企業のアジアでの立地戦略になすすべが見当たらず企業誘致戦略の転換を迫られている状況にある。
とはいえ、企業誘致を進めなければ人口減少などにより地域経済は疲弊することがみえてきている。そのための誘致戦略、戦術が必要となる。ただ、多くの自治体は企業誘致戦略の計画づくりに熱心であるが、企業誘致の戦術が欠けている。つまり、企業誘致のために道路や工業団地整備、企業立地の優遇措置などの誘致のインフラ整備を進めるが、肝心の企業誘致の戦術がない。そのため、企業誘致活動に苦戦を強いられている。
戦術の基本は第1に、人材である。優秀な人材を企業誘致活動に配置する。第2は企業のターゲットを絞ること。自らの地域の強み、弱みをしっかりと見極め、地域の身の丈に合った企業をターゲットにする。第3は自治体の首長と幹部の理解である。企業誘致活動の人材が自由に動くことを支援できる体制が求められる。
その中で企業誘致戦術を持って成功した自治体がある。福島県石川町である。第1の戦術である人材については、町長が信頼している人材を当て、「人と資本」の流出の抑制と流入を促すことを目的で「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定している。その中には企業誘致戦術として、ターゲット産業や雇用改革、地域資源活用など地域の強みを生かす戦術が組み込まれている。それにより活動した結果、航空機部品の製造する企業の誘致に成功している。その一方で、働き方改革も進め、主婦の雇用を進めるテレワークや地域資源活用の振興策を積極的に進めている。
地域の企業誘致に欠けているのは、戦略があって戦術がないことだ。今後、グローバル経済が進む中で、いかに企業誘致を成功させるかは、地域にあった戦術をつくることが重要である。