内閣府・財務省による法人企業景気予測調査(2021年4-6月期調査)における景況判断は、大企業が4.7%ポイント減少となり、1-3月期以降2期連続の落ち込みである。また日本政策投資銀行の全国設備投資計画調査によると、21年度の国内設備投資額は、前年比12.6%増加する傾向にある。新型コロナウイルス感染拡大で見送られてきた電気機械、輸送用機械などの投資、EVやデジタル化需要拡大に向けた投資の増加もあり、製造業を中心に持ち直しつつある。ただコロナの影響が大きい運輸やサービスなどの非製造業は依然厳しい状況が続き、K字回復の様相となっている。
製造業の立地動向
経済産業省が実施した20年の工場立地動向調査(速報)によると、全国における工場立地件数は、前年比19.3%減の826件、工場立地面積が11.1%減の1148ヘクタールとなっている(図1)。特にコロナ禍における設備投資の落ち込みが、工場立地にも影響してリーマン・ショック以来の低水準となっている。
業種別では金属製品製造、輸送用機械製造の立地件数が大幅に減少し、前者は166件から103件に、後者は101件から58件と大幅な減少となっている。また、立地面積では、上位4業種(食料品製造、金属製品製造、生産用機械製造、輸送用機械製造)において、前年より大幅に減少している。
地域別の立地件数では、全地域において前年から減少している。また、立地面積においては、北海道が高い伸びを示したものの、その他地域でほとんどが減少している。コロナ禍の工場立地への影響は、今後もしばらく続くと思われる。
サプライチェーン問題と半導体産業の国内立地
長引くコロナ禍と半導体不足により、生産活動における国内外のサプライチェーンが寸断され、需給バランスが崩れてきている。さらに米中の貿易問題により自国製品を優遇する経済政策へと移っていることから、これまでの効率を重視したグローバルなサプライチェーンから、自国主義の現地生産移管などの再構築が迫られている。特に半導体の供給不足などを受けて、経済安全保障の観点から半導体サプライチェーンに対する関心が世界的に高まっている。
そのような中で、今年3月に茨城県ひたちなか市の半導体大手ルネサスエレクトロニクスの那珂工場で火災が発生し半導体生産が停止した。ルネサスは、主に自動車向けの半導体を生産していることから、トヨタ自動車、ホンダなど国内自動車メーカーへの供給が止まり、減産に追い込まれている。特に自動車やスマートフォンなどでは、半導体の需要が高く、世界的に供給が追いついていないのが実態である。世界各国は経済安全保障の観点から、重要な生産基盤を囲い込む新次元の産業政策を展開し、積極的に半導体工場の誘致に力を入れている。
わが国においてもサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性が顕在化したことから、半導体を含めて製品・部素材の円滑な供給を確保するなど、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化を図ることが求められている。今年7月に工場の新設や設備の導入を支援する「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」制度の第2次募集が行われ、151件が採択決定されている。なかでも半導体関連の設備投資件数が84件と半数以上を占めている。そのうち、わが国の強みである「半導体製造装置関連」と「半導体副素材関連」で7割を超えている。一方、日本に決定的に欠けている分野である「ロジック半導体」の設計・製造の設備投資は1件で、この分野の強化が政府に求められている(図2)。
具体的な政策としては、先端ロジック半導体を国内で開発・製造できるよう、海外の先端半導体受託製造(ファウンドリー)の誘致を通じた日本企業との共同開発・生産や、メモリー・センサー・パワーなどを含めた半導体の供給力を高めるための大胆な支援措置を図る。特にわが国の強みである製造装置・素材のチョークポイント技術を磨くために、海外の先端ファウンドリーとの共同開発を推進し、先端ロジック半導体の量産化に向けたファウンドリーの国内立地を促進する。
その一つとして、ソニーと半導体受託製造の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)は、自動車や産業機械、家電などに使う前工程中心の半導体工場を合弁で建設する計画が浮上している。立地場所は、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本県菊陽町)の熊本テクノロジーセンター(TEC)近接地に建てる計画。面積は21ヘクタールで、既に用地が確保されているとも言われている。ただ、誘致実現に向けては、補助金などの支援策が大幅に拡充されることが不可欠となっている。
また、半導体デバイスのさらなる集積化・高性能化を可能とする3次元(3D)パッケージ技術の開発が不可欠なことから、TSMCジャパン3DIC研究開発センターが産業技術総合研究所のクリーンルームに研究開発用のパイロットラインを構築することが決まっている。
今後の半導体立地促進において、製造装置や材料・部材を含めたサプライチェーン上重要な製品の生産拠点を国内に確保できる体制整備が、デジタル社会を支える重要基盤・安全保障に直結する。半導体産業の育成を国家が主体的に進めることが求められてきている。
スマート産業団地構想(ゼロ・カーボン産業団地)の実現に向けて
地球温暖化問題は、パリ協定以降世界各国が大きな課題として本格的に取り組んでいる。わが国においても昨年10月に菅義偉首相は「50年までに、温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。カーボンニュートラルへの挑戦は、産業構造や経済社会の発展につなげ、経済と環境の好循環を生み出す狙いがある。
GHGの排出源となる産業団地においても、カーボンニュートラルの思想を取り入れ、産業団地からの排出を最小限に抑えることが求められる。そのためには、再生可能エネルギーを最大限活用して発電した電力を、大型蓄電池と組み合わせることで電力を自家消費する、スマートグリッド型の電力供給システムを構築したスマート産業団地が必要となる。
基本的には、スマート産業団地に立地する企業の工場屋根や駐車場、道路などに太陽光パネルを設置。さらにリユースしたパネルを活用することで、パネル生産時に排出する二酸化炭素(CO2)の削減ができ、カーボンゼロ対応型インフラを構築する。また産業団地のオンサイトには、PPA (Power Purchase Agreement)の電力販売事業者を誘致し、太陽光パネルなどで発電された電力を昼夜活用するために、大型蓄電池を設置して企業のピークシフトを行うなど、エネルギーコストの引き下げを図る(10%程度)。
ここに立地する企業のメリットは、環境対応型産業、CO2の削減企業として社会的評価が高まり、低利融資や補助事業など有利な支援策を受けることができる。さらに自治体側としては、グレードの高い企業立地の可能性が高まる。
環境というキーワードは、これからの産業界において避けて通れない。産業団地という小さな空間の取り組みでも、カーボンゼロは、立地企業にとって重要な意味を持つ。