東京都の南部に位置する大田区や品川区、世田谷区は国内でも有数のモノづくり産業の集積地となっている。羽田空港や沿海部に近い地の利を生かして造船業や重工業が発達し、これらを支える中小製造業が集積。昨今ではIT関連企業も多く、モノづくりとITが融合した新産業も生まれている。大田区は羽田空港跡地の再開発により新産業創出を後押するほか、品川区ではITやスタートアップ企業が手を取り合って“五反田バレー”構想を推進。行政や金融機関の支援を取り付けながら、新しい時代をにらんだ事業展開を進めている。
羽田空港跡地
「新産業創造・発信拠点」を計画
羽田空港跡地第1ゾーンでは、2020年の“まち開き”に向け整備が着々と進む。大田区は海外へとつながる羽田空港の立地の優位性を生かした「新産業創造・発信拠点」の形成を計画している。自動運転やロボティクス、健康医療といった先端産業で、区内の中小製造業と連携した新ビジネスの創出を目指す。東京オリンピック・パラリンピック開催に伴い利用者の増加が見込まれる羽田空港で、日本のモノづくりの技術力と日本文化を発信する。
鹿島など9社が出資する羽田みらい開発(東京都大田区)は昨年10月に起工式を開催、整備事業に着手した。羽田空港跡地の一部である第1ゾーンでは、イノベーション創出のため先端産業分野を手がける企業の誘致を進めている。
デンソーが20年6月に開設予定の自動運転技術の開発・実証拠点には、実証用の約200メートルのテスト路を備えたモビリティシステムの開発棟を設ける。同社が都内に持つオフィスで企画・研究開発し、羽田で試作開発や実証を行うイメージ。高度な技術を持つ区内の中小企業などとも連携し東京エリアでスピーディーな開発体制を整える。
“まち開き”へ整備着々と
22年には臨床機能を備えた医工連携を実現する「先端医療研究センター」が開業予定。臨床から直接得られる医療ニーズと技術のマッチングを行い、医工連携を目指す。区内企業の受注拡大につながる医療機器の開発のほか高齢者医療や海外展開にも取り組む。ほかにも研究開発ラボやベンチャーオフィス、区の施策活用スペースを設ける。
大田区では、第1ゾーンで展開する先端分野で区内企業の参画を図るため18年度から「戦略的産業クラスター形成パイロット事業」を実施している。昨年は「小型自律走行移動体の開発」や「眼科手術機器およびシミュレーターの開発」、「多言語対応スマートロボットの開発」など6つのプロジェクトを選定した。
同ゾーンは日本文化を発信する拠点としても機能する。Zeppホールネットワーク(東京都港区)は、20年夏に3000人規模の大型ホールを開業予定だ。多様な取り組みで国内外から人を呼び込み、地域経済の活性化を推進する。
下町ボブスレー
課題洗い出し、ソリ改良に注力
東京都大田区の町工場が手を組み、冬季五輪種目のボブスレーのソリを開発・製造してきた下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会。昨年は運営体制を刷新し、4代目委員長には三陽機械製作所の黒坂浩太郎社長が就任した。今年は大会での採用に向けてテスト滑走などを行い、改めて課題を洗い出す。地道に検証を進めこれまで製作したソリの改良に注力する。
2018年2月、平昌五輪出場のジャマイカチームに下町のソリの不採用を通告されてから1年がたつ。その後、体制を一新し再始動。五輪での採用は最終目標として視野に入れつつ「国内外問わず多くの人に乗ってもらい、実績を積む。操作性の向上を目指す」(黒坂社長)方針としている。特定のチームにこだわらず、滑走本数を増やして分析のためのデータを収集する。
ソリの開発では新たな動きが出ている。これまで、氷に接する「ランナー」と呼ばれる刃部分は海外製のものを採用していたが、今回初めて下町製ランナーの製作を開始した。マテリアルなどが図面化までを手がけ、今後は切削加工に入る。プロジェクトの参加企業の中から加工を担当する企業を調整中だ。
大会で実績積む
3月にはフランスのボブスレーコースで、複数の海外メーカーのソリと比較する滑走テストに参加する。すでに海外にある7号機を使用。それまでにランナーの完成を間に合わせたい考えだ。テストでは、1人のパイロットが各ソリを乗り比べる。
黒坂社長は「やっと同一条件下での比較ができる。スピードやソリの癖など検証し、持って返って改良に生かしたい」と話した。昨年は風洞実験にも参加し、ソリの空力性能についてのデータを得たが、コーナーでの速度の変化など動いている状態での試験が重要だという。
天候や氷の状況などが結果を左右するボブスレー。浅津このみさんは下町ボブスレーチームにパイロットとして所属後、マテリアルに入社しプロジェクトに尽力している。浅津さんは「日本の技術力は高いが、これまで公平なテストがされてこなかったのが残念」としており「今回は強豪国がどのようなテストをしてデータをとっているのかを学びたい」と意気込んだ。
大田区
町工場、東南アジアのVBと連携 試作品開発を支援
東京都大田区はリバネス(東京都新宿区)に委託し、東南アジアのベンチャー企業と大田区町工場との連携による試作開発を支援している。海外の研究開発型ベンチャーが抱えるモノづくりの課題を区内企業の技術力をもって解決する。8月にキックオフを行い、採択された3社の各ベンチャーが区内企業と連携して約6カ月間の開発を進めてきた。
I・OTAとマレーシアのAcet Innovatesは、植物のケナフ繊維の商業利用を目指す。繊維を高効率に生産するため微生物由来の酵素を使用する。微生物培養から酵素液回収までの一連の装置を開発する。
ほかにもサンリキとタイのiVET、江和テクノとシンガポールのRed Dot Droneの2チームが試作開発を行った。2月1日に大田区産業プラザ(PiO)でこれまでの試作の成果発表会を実施する。プレゼンテーションや新たな事業創出をテーマにパネルディスカッションを行う。