県・市町村連携し活性化へ
大消費地の東京に隣接して都市機能を備えながら、自然豊かな環境もあるのが千葉の魅力の一つ。こうした魅力を生かし、千葉県は地域に点在する空き公共施設を活用した企業誘致を推進し、地域活性化に結びつけようとしている。一方、都市部に近い位置に新たな工業団地が造成されるなど、県内では多様な産業基盤の整備が進んでいる。
空き公共施設を活用 廃校などに企業誘致
千葉県は、県内の22市町村と連携し、地域の空き公共施設を活用した企業誘致に取り組んでいる。廃校になった小学校や保育園、使われなくなった給食センターや公民館などの土地や建物を有効利用し、企業が生産拠点や研修施設として活用するのを促進している。2016年度から事業に着手し、これまでに7市町12件の企業進出に結びつけることに成功している。
県は、各自治体が保有する空き公共施設の情報をフォーラム開催などを通じて企業に提供、さらに企業へのヒアリングを通して進出可能性のある企業を探し、市町村に紹介している。2年間で200件以上のマッチングを行ってきた。
銚子市、いすみ市、南房総市を中心とする県北西部や南部の市町村では、工業団地の不足などにより企業誘致が進んでいない。そこで、人口減に伴い増えている小中学校などの空き施設を企業の事務所や作業場として再利用する。自治体にとっては遊休施設の維持管理費を削減でき、企業にとっては比較的安価に拠点を開設できるというメリットがある。まさに一石二鳥の取り組みと言えそうだ。
旧給食センターが食品関連の製造拠点に活用されたり、旧小学校が農業体験やスポーツの合宿施設に活用されたりと、さまざまな活用形態が生み出されている。
千葉県は東京都心まで車で1―2時間程度の距離にありながら、自然豊かな環境を提供できるという特徴がある。「“都会と田舎が隣接している”と言えるような千葉の強み生かして、空き公共施設のさまざまな有効活用方法をアピールしていきたい」(県商工労働部企業立地課)という。
同事業は18年度以降も継続する。セミナーやバスツアーの開催などを通じて空き公共施設活用の成功事例を広く発信すると同時に、関心を持つ企業の掘り起こしを行っていく方針だ。
千葉市内に都市型用地
都市部近郊での新たな産業用地の整備も進んでいる。千葉市はデベロッパーのエム・ケー(東京都日野市)とタイアップし、明治大学誉田農場跡地(千葉市緑区)を都市型産業用地として整備している。JR東日本外房線の誉田駅から徒歩10分という立地条件の良さが売り。
企業では労働力の確保が課題となる中、従業員を集めやすいというメリットがあることから、労働集約型の食品関連産業などに適した産業用地となりそうだ。
開発面積は26ヘクタールで、分譲面積は18ヘクタール。駅から徒歩圏内なことに加え、千葉外房有料道路高田インターチェンジにも近接。住宅地にも近く、従業員が通いやすい条件が整う。
総事業費51億2900万円のうち、進入道路や下水道、調整池など周辺インフラの整備に対し、千葉市が10億円を上限に負担する。民間事業者と組むことで、市の財政負担を軽減するとともに、企業立地の増加に伴う産業用地の不足をカバーするのが狙いだ。
治療学AI研究推進 千葉大が拠点開設
千葉県内で人工知能(AI)を活用した研究を推進する動きが出てきている。千葉大学は、「治療学人工知能研究センター」を4月に開設し、医学分野でAIを活用した研究開発を積極化する。臨床研究や基礎研究から得られる「医療ビッグデータ」をAIで解析し、患者一人一人に最適な治療法を提供する手法の開発などを目指す。併せて、医学系のAI技術者の育成拠点としても活用していく。
同センターは、医学部や薬学部、看護学部、付属病院などが集積する亥鼻キャンパス(千葉市中央区)に開設した。「組織間の垣根が低く、共同研究がしやすい」(中山俊憲センター長)という千葉大の強みを生かし、医学系のAI研究を部門横断的に推進する。
同センターには「臨床研究部門」「トランスレーショナルオミクス研究部門」「基礎研究部門」「医療AI研究部門」「企業との共同研究部門」の五つの研究部門を設置。臨床の検査データや基礎研究の実験データなど大学内にあるさまざまなデータをAIの学習内容として提供し、センターの中核研究部門である医療AI研究部門が具体的な研究を行っていく。
医療AI研究部門に所属する研究者は、外部の若手研究者をリクルートして配属する計画だ。今夏以降に採用を開始し、3年後には5人ほどの専任研究者を集める予定。具体的な研究テーマは、配属した研究者の意向を基に決める。同研究部門には大学院生も受け入れて、医学系AI研究分野の次世代人材の育成を図る。
また、企業との共同研究も推進し、「今までは各研究者が個別に実施していた産学連携を、一つのプラットフォームの中で組織的に取り組む」(中山センター長)方針だ。
さらに、将来は理学部や工学部、人文社会系学部など千葉大のすべての組織とAI研究で連携することも想定。医学系AIの研究開発と人材育成でモデルケースを創出する。