東日本大震災の被災地では、地域差はあるものの復興の先を見据えて歩みを進めている。福島県では工業団地の造成や企業誘致が進むなど、産業振興の取り組みが活発になってきた。
福島県沿岸部の浜通り地域のうち、東京電力福島第一原子力発電所周辺の町では、産業振興に向けた自治体の動きが活発だ。浪江町は新たな産業の創造に向けて工業団地の造成と企業の進出に力を入れる。双葉町や富岡町も工業団地の造成と企業誘致に乗り出した。
浪江町は面積の約80%が帰還困難区域であり、震災当時の人口2万1000人のうち、地元へ戻った人は約900人に留まる。町は地元へ戻る人が地元で働ける環境をつくるため、工業団地の整備を進める。
大震災で企業が撤退した既設の工業団地には、日産自動車系の電池再生企業であるフォーアールエナジー(横浜市西区)が進出。静光産業(大阪市淀川区)も工場建設を決めた。
水素を製造
浪江町が造成する3カ所の工業団地のうち「棚塩産業団地」には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが主体となり、再生可能エネルギーの電気で水素を製造する世界最大のパワー・ツー・ガスプラントの建設が19年末の完成を目指して進む。浪江町の磯貝智也産業振興課課長補佐は、「帰還する住民に身近に働く工場があれば、帰還も速まる。工業団地に企業をさらに誘致し、復興につなげたい」と強調する。
富岡町も初めての工業団地として「富岡産業団地」(22ヘクタール)を造成しており、21年3月に完成。進出する企業へは賃貸で提供する。20年3月に避難指示が一部解除される双葉町には30ヘクタールの工業団地を整備。2月に企業への説明会を開催したところ、21社が参加した。現在までに3社の進出が決まった。
大熊町は除染が始まった120ヘクタールの農地にエネルギー作物を植え、22年以降にメタン発酵バイオマス発電を具体化する、全国で初めてのバイオマス発電の地産地消モデルを事業化する予定だ。
福島第一原発周辺自治体のこうした産業復興への動きは、インフラ面でのバックアップが大きい。浜通りを走る常磐道は3月末までに楢葉町と大熊町でインターチェンジが開通する。また国内有数のサッカー施設「Jヴィレッジ」(楢葉町、広野町)は4月20日に全面再開し、19年度末全面開通するJR常磐線には同名の新駅も開業する。
ロボ研究
浜通りの再生に向け、福島県は国のプロジェクトとして「福島イノベーション・コースト構想」を掲げ、ロボット産業や再生エネ、農林水産業の育成と人材教育を進めている。
再生エネでは、原発からつながる高圧送電線を活用した国内最大の陸上風力発電の建設が19年から阿武隈地域で始まる。南相馬市は、ロボットの研究開発拠点「福島ロボットテストフィールド」の20年全面完成を前にロボット産業が育ち始めてきており、市の整備する復興工業団地には産業用ロボット企業の進出が決まってきている。