意見相違の表面化懸念
英国と欧州連合(EU)が2020年末に合意した貿易・協力協定に基づく新たな関係を開始して2カ月近くが経過した。合意なしで移行期間を終了する最悪の事態を回避し、両地域間では関税や数量割り当てなしの自由な貿易活動が継続される。だが、英国は主権回復と引き換えに、最大の貿易相手先であるEU市場への優先的なアクセスを失った。協定では英国が高い競争力を誇るサービス分野がほとんどカバーされず、多くの非関税障壁が発生する。今後は国境通過時の税関検査や動植物検疫が必要となるほか、英企業がEUで事業活動を行う際には関連規則に従い、改めて許認可や証明書類を取り直す必要がある。日本の進出企業にとっても、事業コストの増加は避けられない。
通関手続きの開始に伴いEUとの物流の大動脈であるドーバー港周辺での深刻な渋滞発生が不安視された。移行期間終了前に駆け込みで在庫を確保したことやコロナ禍で物流量が減少していることもあり、今のところ大きな混乱は起きていない。混乱が目立つのが、英国本土(グレート・ブリテン島)と北アイルランド間の物流だ。アイルランド和平と英国とEU間の国境管理を両立するため、北アイルランドでは離脱後もEU規則が適用される。食品安全基準証明取得によるコスト負担などを嫌気し、英国本土からの出荷が滞り、生鮮食品などが不足する事態となっている。また、英水域での漁獲割り当てをEUから段階的に取り戻すことが決まった英国の漁業者の間でも不満が募っている。煩雑な手続きなどでEU向けの出荷が遅れ、鮮度低下で契約を打ち切られるケースも散見される。
協定発効で英国とEUとの関係が完全に確定したわけではない。英国の金融業者が…