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特集

【産業立地特集】新たな産業と投資 創出 産業立地

【2022年9月22日付 日刊工業新聞面 広告特集】

地域の持続的な成長は特性に応じた主体的な創出がカギとなる(写真はイメージ、千歳市・臨空工業団地と泉沢向陽台住宅地)

製造業の事業所数、工場立地件数は、減少傾向が続いている。国内外から製造工場などの産業誘致を進める取り組みもさることながら、土地利用の転換も見越した、新産業の育成・創出や、交流人口・関係人口の拡大に資する取り組みは、地域経済圏の拡大にとって重要なものとして捉えられる。


図1 製造業の事業所数(従業者4人以上の事業所)の推移
図1 製造業の事業所数(従業者4人以上の事業所)の推移

経済産業省実施の工業統計調査によると、2019年の製造業の事業所数(従業者4人以上の事業所)は約18万件であった。かつては、工場地帯内での循環経済圏が構築されていたが、グローバルサプライチェーン構築の動きにより企業の生産機能などの海外移転が進んだ結果、02年から19年の18年間の年平均変化率は2.7%減と、全国的に右肩下がりの傾向が続いている。
 特に、四大工業地帯を構成している京浜工業地帯や阪神工業地帯が位置している南関東と近畿の減少率(年平均変化率)は、全国平均よりも高い水準で推移している。
 また、経産省実施の工場立地動向調査によると、工場立地件数はリーマン・ショック以降1000件前後で推移していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてその件数は減少し21年は850件程度だった。地域別に見ると、北海道・東北地域が伸長しているものの、地域によっては厳しい状況が続いている(図1)。
 コロナ禍によりサプライチェーンの国内回帰の動きが一部ではみられている。政府も注力領域の一つと捉えて支援を進めてはいるものの、今後も人口減に伴う国内消費の需要減少が見込まれる。このような中、製造業の事業所や工場の縮小トレンドは続く可能性があり、製造業に依存してきた地域においては産業の空洞化が進行するとともに、工場跡地などの利活用にかかわる対応の問題が顕在化する恐れがある。
 そのような問題を解決する方策として、地域の成長をけん引する新たな産業の創出・育成や、交流人口・関係人口の拡大による地域経済圏の拡大が、持続的な成長において欠かせないものとなりつつある。

政府が掲げる地域の持続的な成長方策の方向性

図2 「経済財政運営と改革の基本方針2022」における新しい資本主義に向けた改革の内容抜粋
図2 「経済財政運営と改革の基本方針2022」における新しい資本主義に向けた改革の内容抜粋

14年に、国内の各地域がそれぞれの特徴を生かした自律的で持続的な社会を創生することを目指し、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定された。
 同ビジョン・総合戦略のもと、「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」という四つの基本目標と「多様な人材の活躍を推進する」「新しい時代の流れを力にする」という横断的な目標の達成に向けた政策が進められている。
 また、22年6月に岸田内閣の基本方針が策定された。そのうちの一つである「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)においては、新しい資本主義の実現に向けて、計画的で重点的な投資や規制・制度改革を行い、成長と分配の好循環を実現する経済財政政策の全体像が示された(図2)。特に、新たな産業育成の観点では、科学技術・イノベーションへの投資やスタートアップへの投資が重点投資分野として言及された。
 また、交流人口・関係人口の創出の観点では、多極化・地域活性化の推進の項目において、デジタル田園都市国家構想や、観光立国の復活、文化芸術・スポーツの振興に向けた取り組みが示された。地域の持続的な成長においては、地域の特徴を生かしながら、地域が主体的に新たな“成長の種”を産み出し・育てていくことが一層求められてきている。
 以下では、産業の誘致や土地利用の転換に焦点を当て、新産業の育成・創出や、交流人口・関係人口の拡大に資する取り組みについて、国内外の取り組み事例を概観する。

国内外からの投資を呼び込む新たな産業の創出・育成

図3 新たな産業創出・育成、交流人口拡大にかかわる取り組み例
図3 新たな産業創出・育成、交流人口拡大にかかわる取り組み例

人口減少下でも地域が稼げるような土地利用を推し進めるには、その地域に対する投資をいかに呼び込むかが重要なポイントとなる(図3)。
 例えば、フランスでは、パリ市内の貨物列車の駅舎を改装する形で、17年に世界最大級のスタートアップ支援施設「ステーションF」が開業した。13年に新しいスタートアップ支援策「フレンチテック(La French Tech)」が公表されたのを受け、フランスのスタートアップを世界各国の主要テクノロジーハブとつなぐ、新しいエコシステム形成が推し進められている。ステーションFは、その形成拠点として、国内外の起業家や海外企業、投資家(ベンチャーキャピタルなど)を誘致し、産業創出・育成に向けた取り組みが進められている。
 中国の北京市にある798芸術区は、従来工場が集積するエリアだったが、00年頃よりアートエリア化が進行。その流れの中、北京で活動していたベルギー人アートコレクターが「ユーレンス現代芸術センター」を設立。現代芸術の美術館をオープンしたことをきっかけに、国際的な認知度が高まり、近年は、芸術家のアトリエや住居、海外から進出したギャラリーが多く立地し、アート・コミュニティーが形成されている。
 また、企業のオフィスやショールームなど、産業集積が進み、アートを軸にした地域経済の好循環が実現している。

関係人口・交流人口の拡大

人口が右肩上がりに推移していた高度経済成長期の日本においては、神奈川県のみなとみらいのように工場跡地に大規模な複合開発が進められるケースは一般的なものであった。
 他方で、人口減少下においては、持続的な成長が期待できる大規模な開発を進めることの困難さは以前よりも増している。そこで、関係人口や交流人口の拡大に着目した土地利用が一つのポイントになると考えられる。
 米国ではニューヨーク郊外に、120年稼働した製鉄工場跡地を活用し、芸術、文化、家族向けイベント、地域の祭典、教育、楽しみを提供するキャンパス「スチールスタックス」としての再開発がなされた。
 製鉄工場の高炉などの既存アセットをユニークベニュー化し、年間1000件以上のコンサートなどのイベントを開催することで、若年層を中心に誘客を強化し、地域の交流人口拡大に貢献している。
 国内でも、JFEスチール東日本製鉄所の沖合埋立地区への移転に伴い生じた遊休地に整備されたフクダ電子アリーナなど、大規模な敷地を活用した大規模集客施設を整備することにより、交流人口の拡大を実現している事例がある。
 他方で、いずれの事例においても、単に施設を整備するだけでなく、ターゲットを見定めた誘致活動を行うとともに、施設をハブとしながら企業誘致と地域の成長をつなぐ推進役の存在がコミュニティーや繋がりを生み出す取り組みを継続していることで、成長につながっている。地域においても、単に施設整備を進めるだけでなく、主体的に国内外からの「ヒト」「カネ」を呼び込み続けるための取り組みを進めることで、持続可能な地域経済の成長が実現されるだろう。

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