Powered by 日刊工業新聞

コラム

【連載】グローバルの眼/「三冠王」イエレン氏のキャリアが語るもの

【2020年12月17日付 国際面 日刊工業新聞電子版

女性指導者、着実な育成

ジョー・バイデン次期政権の閣僚人事が順調に進んでいる。予想通り女性比率が高く、マイノリティーの登用も多い。トランプ政権は白人男性の比率が高かったが、2021年になればすっかり様変わりということになりそうだ。

財務長官にはジャネット・イエレン前連邦準備制度理事会(FRB)議長が指名されている。建国の父の一人、アレクサンダー・ハミルトン以来、初の女性財務長官が誕生することになる。議会対策などの政治手腕を不安視する向きはあるものの、経歴が不足だという人はいないだろう。この人事に関しては、議会共和党もスムーズに承認するものとみられている。

イエレン氏は多くの著書と受賞歴を有する経済学者であり、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校などで教鞭(きょうべん)をとった。専門は労働経済学で、賃金の上昇が企業の生産性向上に資する効率賃金理論を提唱している。夫のジョージ・アカロフ氏はノーベル経済学賞受賞者、息子さんも経済学者という学者一家である。

彼女の経歴をたどってみると、近年の米国社会がいかに女性の指導者を育成してきたかが垣間見えてくる。1997年にクリントン政権において、大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長ポストを得たことが公職への第一歩となった。これはホワイトハウス内のチーフ・エコノミスト的な役職で、過去に多くの経済学者が務めている。ジョー・スティグリッツ氏は後にノーベル経済学賞を得たし、アラン・グリーンスパン氏やベン・バーナンキ氏のようにFRB議長に転じた例もある。

クリントン政権はこれ以前の93年にローラ・タイソン氏をCEA委員長に登用しており、イエレン氏は「女性初」ではなかった。貿易論専攻のタイソン氏が先に選ばれ、労働経済学専攻のイエレン氏が後になった、というのは90年代の米国経済の事情を反映しているようで興味深い。

04年にイエレン氏は女性初のサンフランシスコ連銀総裁となり、以後はFRBを舞台に活躍することになる。10年からは副議長、そして14年からはバーナンキ氏の後を継いでこれまた女性初の議長となった。リーマン・ショックに伴う大規模な量的緩和政策を実施した後に、金融政策の正常化に当たったことは多くの人が記憶していよう。

これでイエレン氏はCEA委員長、FRB議長、財務長官という経済3ポストを制覇する「三冠王」となる。もちろん史上初の快挙である。折からの米国経済は、コロナ禍において、ゼロ金利が常態化して金融政策の効果が低下しており、財政政策の重要性が高まっている。元FRB議長が財務長官に転じるのは、意義深いことであると言えるだろう。

双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦

「女性活躍社会」がとかく掛け声倒れになりがちな日本社会と比べると、米国は実に30年がかりで女性の指導者を育ててきたことを思い知らされる。高い山を作るためにはまずすそ野を広くして、それから長い時間をかけるべきなのである。

◇双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦

ページトップ