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コラム

【連載】グローバルの眼/パキスタン、脆弱経済脱皮へ第一歩

【2019年4月19日付 国際面 日刊工業新聞電子版

製造業振興で債務返済

スズキはパキスタン子会社のパックスズキモーターが昨年11月、4輪車生産累計200万台を達成した(記念式典での鈴木修スズキ会長(右)とアブドゥル・ラザク・ダウード首相顧問)

イムラン・カーン氏が第22代パキスタン首相に就任してはや8カ月。クリケットのスーパースターから政界に転じ、2018年の総選挙で率いる政党が第一党となった。首相にたどり着くまでの22年間は、野党パキスタン正義運動(PTI)の党首だった。それ故、政治手腕を危ぶむ人も少なくなかったが、不正・腐敗の噂(うわさ)が絶えなかった前政権に比べ、現時点では好意的な評価が多い。

首相就任直前の18年4―6月期にパキスタンの政府および民間の対外債務(四半期ベース統計、出所・パキスタン国立銀行=SBP)は953億4200万ドルにまで膨れ上がっていた。歴代政権の負の遺産を丸ごと抱え込んでしまった重荷とはいえ、19年4月5日時点の外貨準備高は172億2830万ドル(出所・SBP)、うちSBPの外貨準備金は102億7190万ドル。このままでは国が破綻しかねない。

カーン首相は国際通貨基金(IMF)に緊急支援を要請する一方で、諸外国にも資金援助を求めた。18年10月、サウジアラビアから60億ドル(融資30億ドル、石油繰り延べ支払い30億ドル)、19年1月にはアラブ首長国連邦(UAE)から62億ドル(融資30億ドル、石油繰り延べ支払い32億ドル)の支援を取り付けた。

アジアにじゅういち社長・白水和憲

しかし、中国の一帯一路(BRI)計画の一部でもある中国パキスタン経済回廊(CPEC)構想は前政権時に推進されたもの。約620億ドル(当初は460億ドル)を投じて整備されるが、パキスタンは中国から多額の借金を背負い込む。融資の不透明さも以前から指摘されている。18年11月の北京での中パ首脳会談では中国に押し切られる形でCPECの協力継続となったが、肝心の資金援助の詳細ははっきりしておらず、今後カーン首相の対中交渉の真価が問われる。

脆弱経済脱皮の第一歩は製造業の振興だ。パキスタン統計局の17―18年度産業別GDP比では農業18・9%に対し、工業は20・9%。一見、工業国の入り口にあると思われがちな数字だが、実は、工業のうちの製造業は13・6%。パキスタンは基本的にまだ農業国だ。製造業の主産業でもある繊維も原料(綿)を農業に依存する。

カギとなるはずの自動車産業は長年の政策不備が響きGDPの4%程度で、まだ発展途上の段階。だが、これまで新車市場の広がりを阻害してきた大量の輸入中古車に対する規制の動きも最近出てきていることから、メーカーの新規投資も積極的になってきた。パキスタン自動車工業会(PAMA)によれば、スズキ、トヨタ自動車、ホンダの日系3社で新車市場(17―18年度は25万8632台、前年比約21%増)の約9割を占める。新たにスズキ(パックスズキモーター)が第2工場(年産10万台、投資額4億6000万ドル)建設を計画。日産(ガンダーラ日産)も20年後半をめどに、3車種(ダットサン・クロス、ダットサンGo、ダットサンGo+、いずれも1200cc)で年間1万5000台生産、5年後に3万5000台―の生産計画を明らかにしている。こうした投資が積み重なれば長期的な製造業振興につながり、債務返済にも寄与するものと期待される。

◇アジアにじゅういち社長 白水和憲

 大阪外国語大(現阪大外国語学部)卒。映画会社勤務後、渡米。ニューヨークで英文経済誌の記者。帰国後、アジア経済誌編集長などを経て、96年に独立。アジア各国の政府首脳、財閥総帥や現地有力企業トップを取材。主な著作は『巨大合併 アメリカに勝つ経営』(小学館文庫、00年)、『松下電器 中国大陸新潮流に挑む』(水曜社、04)、『世界を動かす原油のことが面白いほどわかる本』(中経出版、08年)、『本当はどうなの? これからのインド』(中経出版文庫、09年)など。

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