9月、池田精工にとって沖縄での6年目が始まった。2013年に稼働した沖縄工場(沖縄県うるま市)は、医療機器のステンレス部品など金属の精密切削を手がける。岡山を中心に展開する同社唯一の県外拠点だ。
苦労重ね6年目
沖縄では補助制度の活用や新たなビジネスチャンスを想定して進出。沖縄県が経済特区に整備した賃貸工場に入居した。当時社長の池田晃会長による、モノづくり人材のための受け皿づくりという目的も大きかった。
沖縄で採用した技術者は現在4人。未経験者も多い。寺坂健吾工場長は「自身も学生時代に加工の楽しさを知った。興味があれば歓迎する」と、社内育成に力を入れる。
人材定着には苦労が続き、受注面も順風満帆ではなかった。機械金属系の進出企業にとって沖縄での顧客獲得は高いハードル。「撤退も見てきた」と寺坂工場長は肌身で厳しさを感じる。
提案営業で開拓
同社も当初見込んだ大口顧客の状況が変わり、営業強化が必要になった。設備の金属部品の精度向上による歩留まり解消を食品メーカーに提案するなど需要を開拓してきた。
県内受注率は、売り上げ自体も伸長する中、初年度のゼロから直近で3割まで上昇。製造業の進出が続く特区内からも受注し、重要部品の加工も手がけるようになった。進出企業間の安定取引は増加を期待する部分だ。
近い台湾も日本製を強みに新たな客先として視野に入る。ただ輸出においては仕上げの表面処理を県内でできないなど、自社で解決できない課題に歯がゆさもある。
17年にはIoT(モノのインターネット)対応の立型マシニングセンター(MC)や3次元計測器を導入するなど設備を増強。次の5年に向けて、沖縄での事業は進み続ける。
【企業概要】
■企業名=池田精工 ■本社=岡山県鏡野町 ■代表者=池田英雄社長 ■製造品=精密金属部品加工
【連載】沖縄でつくる 製造業の選択
沖縄県の経済特区への企業誘致が好調だ。県中部の「国際物流拠点産業集積地域うるま・沖縄地区」の立地企業数は2018年3月末で67社となり、前年から9社増え過去最高の企業数を記録した。立地の形態にも変化が見られる。これまでは賃貸工場への入居がメーンだったが、分譲地への進出も多くなっており、分譲地不足の懸念すら出始めた。
沖縄は製造業の“不毛の地”という不名誉な呼ばれ方もあった。事実、県内総生産に占める製造業の割合は低下傾向で、この10年間はおおむね4%台で推移する。好調な観光がけん引し、伸びを見せる建設業やサービス業とは対照的だ。だが、沖縄でモノづくりをする企業は確実にいる。なぜ「沖縄でつくる」のか。立地企業から答えを探る。
- vol.1 エフエムディ 増産支える「人の手」確保
- vol.2 コンボルト・ジャパン 強い燃料タンク全国500基
- vol.3 リュウクス 飛灰のコンクリ建材に追い風
- vol.4 ナノシステムソリューションズ 半導体装置、台湾大手と直取引
- vol.5 トランスコスモス モノづくり支援、航空機も視野
- 特別編(上) アジア見据え台湾と連携
- 特別編(下) 半導体装置など、県外から特区へ
- vol.6 リムコ 養蚕復活、カイコで医薬原料
- vol.7 池田精工 金属精密切削、県内受注伸びる
- 特別編 広がる再生医療、進出の呼び水に
- 特別編 機器製造、アジア・アフリカへ