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コラム

【連載】グローバルの眼/米が進める“高圧経済”

【2021年3月18日付 国際面 日刊工業新聞電子版

「コンテナ不足」副作用に

最近、国際物流の現場から聞こえてくるのは「コンテナが足りない!」という悲鳴である。コンテナ船の運賃は、1年前の3倍近くまで高騰している。このままでは、最終商品価格にも影響しかねない。

その一因は「米西海岸の港湾にコンテナが滞留し、アジアなどに十分な量が戻っていないこと」だという。コロナ禍の米国の消費者が、「外食にも旅行にも行けない」不満をネットショッピングで晴らしている。「対面のサービス消費」が停滞する一方で、おカネが「モノ消費」に向かっている。実際に2020年秋以降、米国の貿易赤字は急増している。

さらに輸入が急増するにつれて、港湾でたびたびクラスターが発生し、荷役がスムーズに行われていない、という事情がこれに加わる。コロナ禍の米国における活発な「巣ごもり消費」が、世界の物流を麻痺(まひ)させているという構図である。

米国の個人消費が強いのは、20年末に行われた「1人600ドル」の給付金の効果も手伝っている。今般、新たに1.9兆ドル(約200兆円)のコロナ経済対策予算が成立した。その中にはさらに1人1400ドルの給付金が盛り込まれている。米国経済が過熱するのではないかと心配になってくる。

今回の経済対策については、ローレンス・サマーズ元財務長官がワシントンポスト紙上で「GDPギャップの3倍もあり、規模が大き過ぎるのではないか」と疑問を呈している。ところがこの寄稿が「炎上」してしまった。いわく「08年の国際金融危機では、景気刺激策(7870億ドル)の規模が足りなかった」「今はインフレになるような地合いではない。仮に物価が上昇しても、米連銀が制御できるはず」「これはパンデミックに苦しむ人たちへのボトムアップ政策だ」などと反論が殺到したのである。

思えばサマーズ氏はオバマ政権の経済担当補佐官であり、リーマン・ショック後の対策の当事者であった。民主党内には「あのときの経済対策は規模が小さ過ぎた」という思いがある。もっと言えば「銀行を助けたのに、弱者を助けなかった」という反省がある。ゆえに今回は小さ過ぎて後悔するくらいなら、大き過ぎる方がマシだ、と腹をくくっているようだ。サマーズ氏への批判集中は、いわば「お前が言うか?」なのである。

バイデン政権における経済政策の司令塔たるイエレン財務長官は、コロナ感染で失われた約1000万人の雇用が回復するまで、敢(あ)えて強力な財政支出を継続する構えである。金融危機以後の米国経済は、研究開発投資の減少や労働参加率の低下など、負の履歴効果があって潜在的な供給能力が低下している。ゆえに力強い総需要と労働市場のひっ迫という「高圧経済」を作る必要がある。イエレン氏はこの持論を試す覚悟のようだ。

双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦

米国における「高圧経済」という実験は、日本経済にもプラス効果をもたらすだろう。それと同時に「コンテナ不足」のような副作用があるかもしれない。ご注意を。

◇双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦

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